ひとつに'は'なれない

宇多田ヒカルのDistanceの中にある歌詞。
ひとつにはなれない
ひとつには、なれない
ひとつに、はなれない
彼女は「ひとつには、なれない」と歌っているのだけれど、区切る位置を変えるだけで反対の意味になる。
英語でしゃべらナイトに、ショーンレノンが出ていた。彼は自分の事を、イギリスと日本の「ハイブリット」だと表現していた。そして、民族の発展などの話に触れて、世界は一つになっていくと話していた。
彼の父、ジョンレノンもImagineの中で、
The world will live as one.
と歌っている。
国境のない世界、宗教のない世界を想像してごらん。ジョンは、僕たちにそう語りかける。宗教や国境は今も各地で対立を招き、人々を傷つける原因となっている。ジョンはそんなことを伝えたかったんだと思う。たぶん、ショーンの一つになっていくという考えや、ジョンのImagineの中には宗教や国境を「壊す」という意味合いはなかったんだと思う。だけど、じゃあ「ひとつ」になるっていうのは一体どういうことなんだろう。
「ひとつ」になる。それは、宗教や国境とかの差異があること自体を「否定する」ことではないと思う。きっと、大小さまざまな集団の差異があることを前提として、自分自身と他者の両方を「理解する」ことが、「ひとつ」になることなんだと思う。
そもそも、宗教とか国境とか人々が持っている差異そのものも変化していく。ショーンが自分のことをハイブリットだと語っていたように、文化は様々な形で融合していく。そう考えると、「ひとつ」っていうのは、差異がなんにもない理想的な状態ではなく、いろんな差異が混ざりあったり、影響しあったりして生まれる流動的な状況なのではないかと思う。

It's a small worldの歌詞はこんな風になっている。
It's a small world after all.
「結局は、最終的には」という意味の「after all」という歌詞の部分にも、「ひとつ」になるっていうことの意味が込められているんじゃないかと思う。僕たちはそれぞれ異なっているけれど、結局は同じ世界に生きているんだって。
ひとつにはなれない。
この言葉は僕らの生きている世界を表現しているのかもしれない。
僕たちは、様々な背景の上でこれまで生きてきて、違った考え方や慣習を持っている。アイデンティティという言葉ほど大げさなものでなくても、僕らは人との違いの中で自分自身の存在を確認している。
だから僕たちは「ひとつには、なれない」
だけど、同じ地球で今を生きていることに違いはない。
だから僕たちは「ひとつに、はなれない」
ひとつにはなれない。そんな関係の中で、きっと僕らは生きてる。