もう一つの目で、もう一つの世界を眺める。

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (刈谷剛彦)読了。
読みながら視界が開けていくような本。心に残ったところをいくつかまとめてみる。
批判のブーメラン
本書では、他者の取り組みを批判することはできても、いざ自分たちが取り組む番になると同じ批判を浴びる学生の事例が取り上げられている。人に対する批判はそのまま自分に戻ってくる。これに対して、違う立場になって考え、文章化してみることが重要だ、と著者は述べている。

疑問から問いへ
疑問は感じるままで終わってしまう。問いの形にすれば、答えることができる。では、どう問えばよいのか?著者は二つの質問の形を提示する。一つは、「どうなっているのか?」という実態探しの問い。もう一つは、「なぜ?」という問い。そしてこれらを、組み合わせて問いを展開していくことがポイントだと主張している。例えば最近の大学生の就職はどうなっているのか?という問いは前者になる。ただ、このような実態探しの問いは、すぐ答えの出るものが多い。例えば今の質問であれば、大卒就職率60.8% 8万7千人が進学も就職もせず(asahi.com)ということになる。ただ、後者の「なぜ?」という質問では、自分で考えることが必要となる。例えば「なぜ8万7千人が進学も就職もしないのか?」という問いには、たくさんの仮説を立てることができる。これには例えば、「就職先がない」からという答えが用意できる。そしてそこから、「就職先はどうなっているのか?」という実態を探す問いに変換することができる。これを繰り返すことが、考えることにつながる。レポートから日々の出来事まで、いろんなことに応用できる方法だと思う。

抽象性と具体性のあいだで
個別の事例は理解の助けになる。けれど、それはどこまで一般化することができるのか?そんな時に役立つのが「概念」である。概念を用いることによって、それぞれの事例で共通する部分が見えてくる。著者は「概念」をサーチライトに例える。例えば、「ジェンダー」という概念が、これまであった男女観を新しい角度から見直すきっかけになったように、概念は新しい見方を提供してくれる。そして、概念のレベルで考えたことを違うケースに当てはめてみることで、そこにある問題の個別性と普遍性が浮かび上がってくる。

なぜそれが"問題"なのか?
"問題"は、なぜ問題として取り上げられているのか。著者は、メタな視点に立つことで物事を複眼的に捉えることができるとしている。男女平等、グローバル化、情報化、エコロジーなど、そもそもなぜそれが"問題"であるのか、考えてみるべきテーマはいくつもある。

なるほど!と納得することの多い本だったけれど、読んでおしまいでは、"単眼"でしか世界を見ることができないのだろう。著者が教育問題を扱っているように、どんな物事でもいいから"複眼"で捉えてみようとすることで、徐々に視界が開けていく。今まで見ていた世界を、もう一度、恐る恐る眺めてみよう。練習"問題"は、そこら中に転がっている。